地滑り災害で不通が続く南海高野線山岳区間の状況と復旧に向けた課題

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台風21号の大雨の影響により、2017年10月22日に南海本線男里川橋梁が損傷し樽井~尾崎間が不通となりましたが、現在は単線方式により運行を再開し、全面復旧に向けて急ピッチで作業がおこなわれています。

復旧工事が進む南海本線に比べて高野線の情報がとても少ない

一方、同じ日に南海高野線でも山岳区間で災害が発生しました。上古沢駅構内の線路の路盤が沈下して、線路や枕木が浮いたような状況となり、以来南海高野線は高野下~極楽橋で不通が続いています。ただ、南海本線の復旧状況については、マスコミの報道あるいは一般住民や鉄道ファン等によるSNSやブログでの投稿を通じて情報がどんどん上がっていますが、こと南海高野線の状況については、かなり情報が少ないのが実情です。メディアの報道に関しても、被害状況や進捗状況を現地レポート映像を交えて詳しく報じたのは、私の知る限り、関西ローカルの毎日放送(MBS)ぐらいという状態です。(※NHK和歌山放送局も報じていることを、のちに確認しました)

そんな中、南海電鉄は、11月10日に高野線の被災状況に関するリリースを発表しました。

 

出典:南海電鉄 http://www.nankai.co.jp/var/rev0/0008/0715/kamikosawa.pdf

 

写真と図の部分を拡大したものです

 

出典:南海電鉄 http://www.nankai.co.jp/var/rev0/0008/0715/kamikosawa.pdf

これによると、南海電鉄では、和歌山県や九度山町と協働してボーリング調査を実施しました。その結果、上古沢駅では、駅構内の路盤のみならず、山から谷まで含めた斜面全体が地滑りを起こしている可能性があるということです。そのため、引き続き広範囲のボーリング調査を行い、影響範囲の見極めや復旧方法の検討に入るものとみられます。(※初出では国土交通省と記載しておりましたが、和歌山県の誤りです。失礼したしました)

 

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遠方であることとアクセスの不便さから二の足を踏んでいたが

かくいう私も、南海本線の復旧状況については、現地を訪ねて動画やテキストでレポートをアップしましたが、高野線の山岳区間については、鉄道が不通となっている今では、現地へのアクセスが良くないことから二の足を踏んでいました。ただ、やはり情報が少ないからこそ行くべきだろうということで、手掛けていた仕事がひと段落着いたところで、現地に出向いてきました。

地滑りで路盤が沈下したことにより出発信号機や架線柱やなどが傾いています

地滑りの進行度合いや影響範囲等の詳細をさらに調べていくそうです

上古沢駅~下古沢駅の下古沢駅寄りの国道370号で、路肩の崩落が発生していました。国道370号は九度山町内で通行止めとなっている区間があり、こちらも復旧に長期間を要する模様です。

 

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ボーリング調査を各所で実施

各所でボーリング調査が行われていました。また、地滑りの具合を調べるための、地面の動きを測定する装置と思しき機材や、資材運搬用の作業モノレールも確認(もともと以前から設置されていた可能性もあります)できました。

 

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南海電鉄という一民間企業が負うには重すぎる案件だと思う

現地を見てきた感想を言いますと、「大手とはいえ南海電鉄という一民間企業が負うには重すぎる案件じゃないんじゃないか」というものです。(※あくまで私の素人考えという点はご承知おきください)

上古沢駅そのものが急な山の斜面の上のほうに建っている状況で、はるか下のほうに流れる不動谷川に向かって、文字通り谷を形成している地形の中に位置しています。駅に限らず、この地区の住居は軒並み急斜面に位置しており、今後も大雨や地震等による地滑り災害が起きないかと心配になりました。実際に現地を歩いてみると、いかに急斜面に位置しているかを思い知らされるほどの急坂の連続に、息も絶え絶えという状況で、せっかく撮ったビデオにみっともないほどの激しい息遣いが入っているため多くの部分をカットする羽目になりました。本当に運動不足です。

路盤の沈下が上古沢駅構内だけであれば、応急対策を講じて、早期の復旧に漕ぎつけることができるでしょう。しかし、今回の事案が、もはやそういうレベルのものではなく、大雨によって広範囲の地盤が大きな影響を受け、文字通り「山が動く」ような状況であれば、より大規模な地滑り対策を講じる必要があります。そして、対策を講じたとしても今後の降雨によって再び地滑りが発生する可能性が高いのであれば、最悪の場合は路線の付け替え(ルート変更)さえも必要になってくる恐れもあると思います。(※NHK和歌山放送局の報道によると、高さ120メートル、幅100メートルにわたって地滑りが発生しているとのことです。元記事は既に消滅しています)

そうなれば、その対策に必要となる多額の費用が南海電鉄にとっての重しとなります。南海電鉄の決算短信を見ると、平成29年3月期の営業収益は2216億円、経常利益は217億円、純資産は2192億円、キャッシュフローは183億円となっています。

ここで、比較対象として提示するのが適切かどうかは横に置いておくとして…東海道新幹線というドル箱路線を擁するJR東海は、営業収益が1兆7569億円、経常利益は5639億円、純資産は2兆5828億円、キャッシュフローは4145億円となっています。南海電鉄とJR東海を比べることに意味があるのかとお叱りを受けそうですね(すみません…)。但し、やはり両者を比べますと文字通りケタ違いですね。

このケタ違いの経営規模を持つJR東海も、ここ十数年ほどの間に、災害による長期の運休を2度もこうむっています。高山本線では、2004年10月の台風23号による大雨災害により橋梁を流失するなど甚大な被害を受け、高山~猪谷が不通となりました。この時は、JR東海が約50億円をかけて復旧工事を進め、2年11カ月ぶりに全線での運行を再開しました。

 高山線は台風23号の被害で宮川の橋りょうが流出するなどし、高山―猪谷間52.8kmが不通に。JR東海が約50億円をかけて復旧工事を進め、2004年11月に高山―飛騨古川駅間、翌年10月に飛騨古川―角川駅間で運転を再開。残る県境の角川―猪谷駅間27.5kmの復旧を進めてきた。
 同日の定例会見で、松本正之社長は「ひどい惨状で、当初は復旧するかどうか議論があったが、運行が使命だと考え取り組んできた」と、復旧への意気込みを語った。

出典:http://m-yao.way-nifty.com/blog/2007/06/post_a261.html (出典先のブログは岐阜新聞を引用していますが、岐阜新聞の元記事は既に削除されています)

また、2009年10月の台風18号で甚大な被害を受けた名松線は、復旧に6年5カ月もの時間を要しています。この時は、被害の甚大さに加え、名松線が典型的な赤字ローカル線のため、バス転換されてしまうのではないかという懸念から、沿線で鉄道存続の署名活動もおこなわれています。約17億円を要した復旧費用については、JR東海・三重県・津市の3者が出し合ったと報じられています。

費用総額は17億1000万円だ。三重県が5億円、津市が7億5000万円、JR東海が4億6000万円を負担 

出典:東洋経済http://toyokeizai.net/articles/-/111716?page=2 

 

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復旧は長期化必至、利用者数等からみた代替手段検討も?

今回の南海高野線の災害範囲、そして復旧費用がどの程度になるのかは、現時点では不明ですが、路線が通っている斜面そのものが広範囲な地滑りを起こしているということであれば、斜面の補強工事などの対策を講じてからの復旧工事となるため、長期の運休が懸念されます。また、被害状況は全く異なるとはいえ、あのJR東海ですら復旧に2年11カ月(高山本線)や6年5カ月(名松線)を要したことを考えますと、より経営規模の小さい南海電鉄がどのぐらいの期間で復旧に漕ぎつけられるのかは未知数だと思います。

ちなみに、路線の営業係数を見ると、高山線は156.5(2013年度)、名松線は423.3とのことです。

出典:東洋経済http://toyokeizai.net/articles/-/120708?page=2

南海電鉄は、路線別の営業係数が分からなかったのですが、記事を書いた筆者予想という形で全線ひっくるめた営業係数が83.5(2013年度)というデータがあります。

出典:東洋経済http://toyokeizai.net/articles/-/125719?page=4

一方で、名松線の輸送密度は333人/日という数字があります。

名松線の輸送密度は災害前の2008年度実績で333人/日。末端部分の輸送実績はさらに悪いとみられ、JR東海は、当初復旧工事に消極的でした。しかし、三重県と津市が、復旧の前提となる治山事業・水路整備事業を実施することを受けて、JR東海も鉄道復旧に協力することになりました。

出典:タビリスhttp://tabiris.com/archives/meisho/

これらの数字と比較できる南海高野線のデータがちょっと見当たらなかったのですが(リサーチ能力が低くてすみません)、強いて挙げるならば、南海高野線・南海鋼索線の乗降人員数です。

出典:平成27年度和歌山県公共交通機関等資料集
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/020500/documents/tetudo.pdf

これによると、平成27年(2015年)の乗降人員数は、

林間田園都市:8974人、御幸辻:2816人、橋本:8719人、紀伊清水:340人、学文路:525人、九度山:693人、高野下:98人、下古沢:66人、上古沢:19人、紀伊細川:36人、紀伊神谷:11人、極楽橋:50人、高野山駅:3108人

となっています。

また、高野線の大阪南部エリアでは利用者の多い駅である河内長野駅の乗降人員数(南海部分)は下記のとおりです。

2015年(平成27年)度の1日平均乗降人員は28,594人である。

出典:Wikipedia 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B2%B3%E5%86%85%E9%95%B7%E9%87%8E%E9%A7%85

南海電鉄は路線トータルで見た場合は黒字です。ただ、南海高野線においては、多くの利用客が河内長野以北に集中しています。恐らく、高野線全体では黒字だとは思いますが、橋本~極楽橋~高野山の区間は、赤字だろうと思います。

 

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さらなる国や自治体の支援と利用者の理解が必要

南海電鉄としては、90年近くの長きにわたって高野山への重要なアクセス手段を担ってきたという強い自負を持ちつつも、最小半径100mの急カーブや50‰の急勾配を擁する、登山鉄道と呼んでも差し支えない山岳路線を安全第一に維持していくという重責も担っており、そのための費用面での負担は相当なものがあるはずです。

一方で、世界遺産への登録が実現し観光客が増加している高野山への安定的なアクセス手段という役割を南海高野線が担いつつも、京奈和自動車道の整備や、大阪府・和歌山県の県境の国道480号バイパス(鍋谷トンネル)の整備により、各方面から自動車・バスを使った高野山へのアクセスが向上してきています。関西空港を利用する外国人観光客が高野山を訪れる場合、電車だと関空⇒なんば⇒高野山というルートを通って約2時間半を要しますが、関空からバスで高速道路経由あるいは国道480号経由で向かうと、約1時間20分~1時間半ほどで到着できます。

これは私の単なる邪推にすぎませんが、もしかすると今回の不通区間を復旧する場面において、国や自治体の支援(もちろん費用面についても)が十分に得られない場合、南海電鉄が自助努力で山岳区間を維持していくメリットがあるのだろうかと、ふと疑問を覚えました。もちろん、1929年の全線開通以来90年近くに及ぶ伝統と実績を持つ区間の廃止(バス転換)を安易に検討することはないでしょうし、こういう邪推そのものが、本業の鉄道マンにとっては、いささか失礼な話だとは思います。

ただ、山の急斜面に位置する上古沢駅やその周辺の地盤が地滑りで脆くなっている状況は、平地で進める復旧工事とは全く異なり、より広範囲での対策工事が必要ですから、その費用も期間も想像を超えるものになると思います。鉄道の運休に伴う代行バスの運行が長期化すれば、バス転換という話が出ても不思議はありません。特に、高野下~極楽橋の間の駅の利用者数は、いずれも数十人/日に留まっている点をみても気がかりです。

一方で、バスに関しては、インバウンド需要の拡大によるバス不足、慢性的な運転士の不足や高齢化といった課題が山積しており、輸送力拡大にはおのずと限界があります。冬季の高野山周辺では路面凍結や積雪という面も考慮が必要でしょう。また、ケーブルカーの高野山駅を1日約3000人が利用しているということは、その利用客のすべてが代行バスに流れるというわけではないにせよ、鉄道が不通となっている状態ではかなりの台数のバスが必要となりますし、訪日観光客の多くは大きなスーツケースを持参していることから、乗客の数によっては荷物スペースが不足するという問題も生じます。

現在、橋本~高野山間で鉄道代行バスが運行されています(現地の国道370号では、代行バスかどうかは分かりませんが、マイクロバスを何台も見かけました)。曜日や便にもよりますが、かなり混雑するケースがあるという情報を耳にしております。また、運休区間の小規模輸送としては、タクシーも活用しており、現地ではプリウスの小型タクシーが走り回っているのを何度も見かけました。

これは私が訪れた駅周辺でたまたま会った人に聞いた話ですが、「鉄道が廃止になったらかなん(つらい・困るという意味)けど、この区間の利用状況の少なさからいって、もしも復旧にむちゃくちゃカネと時間が掛かるんだったら、バス転換になっても不思議はない」という主旨の話をされていました。この他にも色々と話を聞かせてもらったんですが、どなたが語ったかが分かって万が一その人に迷惑が掛かってはいけませんので、この辺りにしておきます。

私は現地を実際に自分の目で見て、そしてこの人物の話を聞いて、事態の深刻さを痛感しました。もしも、「南海は何をやってるんだ」「いつになったら復旧するんだ」「高野線の復旧は南海本線に比べて動きが遅すぎる」とお怒りの方々がいらっしゃったら、それこそ南海電鉄単体でどうにかできるという話ではなく、国や自治体による財政面の支援や土木工事に関する支援、そして利用者をも巻き込んだ南海電鉄への支援・協力・理解が必要な事案だろうということを知っていただきたいと思いました。

 

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