転職サイト投稿者情報を開示命令/口コミサイトの今後を左右する判決

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2017年8月22日、とある裁判の判決が高松地裁で言い渡されました。原告は徳島市の企業、被告は香川県高松市のプロバイダー(STNet)です。訴えの内容は以下のようなものです。

 

・転職情報サイト「転職会議」において昨年10月、当該企業に対する匿名の口コミ情報が投稿された。

・その投稿内容は、「社長はワンマン」などという内容。これについて「事実無根」と企業は判断。

・当該企業は「事実無根の投稿内容によって、社会的評価を低下させられた」と判断した。

・そこで、誰が投稿したのかを特定するために、プロバイダー責任法に基づく投稿者の情報(氏名や住所など)の開示を求めて訴訟を提起した。

・原告企業の提訴に対し、被告となったプロバイダは「社会的評価を低下させたとまでは言えない」と反論。

・この裁判の判決が22日に高松地裁で下った。裁判長は「名誉棄損であることが認められる」として、情報の開示を命じた。

時系列で大まかに整理して書き出しますと、以上のような流れになります。

転職サイトに事実無根投稿、投稿者名開示を命令
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170822-00050148-yom-soci

転職サイトの「口コミ」とは?

インターネット上には、今回の地裁判決が下った「転職会議」をはじめ、「キャリコネ」や「Vorkers」あるいは「カイシャの評判」といった、口コミ投稿機能を備えた転職情報サイトがいくつも存在します。

口コミですから、その書き込み内容は非常に多岐にわたります。仕事のやりがいや報酬面、あるいは人間関係に満足しているといったプラスの意見から、その逆に、営業ノルマが過酷であるとか、事なかれ主義が社内に蔓延っているなどといったネガティブな印象の意見に至るまで、様々なジャンルの投稿が投稿されています。投稿者は退職者もいますし、現役社員もいます。

口コミ投稿する際には、口コミサイトを利用するための会員登録が必要ですが、投稿者のプロフィール、例えば年代、退職or現役、職種(営業、経理、技術etc)などは、あくまで自己申告のものです。例えばその企業に在籍中、あるいは過去に在籍したことを証明する何らかの証拠、あるいは運転免許証などの公的な証明書を提示して会員登録しているわけではありません。

したがって、投稿されている口コミ情報は、あくまで「自称」「主観」レベルのものということになります。

 

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「火のない所に煙は立たぬ」とは言うけれど

よく「火のない所に煙は立たぬ」と昔から言われます。ただ、口コミサイトに書かれている内容に関して、その通りだなとうなずけるものから、投稿者の単なる理解不足や過剰期待に基づく言いがかりじゃないのかと思えるものまで、実にさまざまです。

私は以前、大手企業に長年在籍した経験があり、その企業も複数の転職サイトに口コミが投稿されています。私は退職後に転職サイトの口コミを閲覧したことがありますが、書かれている内容は概ね自分自身が体験してきたことと類似しており、共感できるものが多かったです。ただ、やはり自分が所属したことのない他部署の書き込みについては、実際にこの身で体験したわけではないため、「へぇそうなのか」という印象です。ただ、そのサイトに書かれている口コミが、自分自身が体験してきた内容と一致点のある投稿がとても多い場合、自分が体験しなかった他部署の書き込みについても、信用度が上がると思います。一方で、具体的な問題点があまり書かれていない書き込みが羅列されているとか、単なる愚痴や罵詈雑言が多数並んでいるような場合は、そのサイト自体の信ぴょう性が落ちると思います。

ある程度信用度が高いと思われる口コミサイトの投稿であっても、口コミには得てして事実とともに「思いこみ」「主観」が混ざるものです。投稿内容が正しいか正しくないかの明確な判定を下すのは、恐らくかなり困難でしょう。例えば、事実無根の投稿内容で被害を受けたと主張する側と、ネガティブな投稿をした側が、今後話し合いの機会を持ったとして、ネガティブな投稿をした側が、その証拠を提示できるどうかは未知数です。では、証拠を提示できなかったら、投稿内容は事実無根のデマなのかというと、必ずしもそうではない場合もあるでしょう。もしくは、逆恨みが高じて虚偽を書きなぐる場合もあるかもしれません。

人は、意見なり苦情を述べるときに、必ずしも証拠を持って臨んでいる場合ばかりではありません。ただ、意見なり苦情を言われた側にとっては、それが思い当たることであれば、それを非と認めてすぐに詫びることで丸くおさまることもあります。反対に、思い当たらないことであれば、「それは違う、証拠を提示してください」と反論するのも、成り行きとしては当然起こり得ることです。

 

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「口コミ」にも主観ではなく事実の提示が求められる時代に

転職サイトの口コミというものは、在籍中の企業、あるいは過去に在籍した際の体験に基づき、「自分自身はこう思った」とか「自分自身はこのような経験をした」という内容を、他の人に知ってもらうために投稿するものだと思います(この意見も私の主観ですが)。

これは転職サイトに限らず、インターネット上に存在する商品レビューサイト(「価格com」など)や、飲食店レビューサイト(「食べログ」など)も同様の性質のものと思います。

そこに投稿する際に、例えば「とても美味しかった」「お店が清潔」「とても高性能な製品で満足」「とてもアットホームな職場」などのポジティブな投稿であれば、投稿された相手側のショップや企業は不満を持たないでしょうし、「それは事実無根だ」と社長や店長が裁判を起こすこともないでしょう。

一方、その逆に、「店員の態度が悪かった」「味が悪かった」「買ったけどすぐ壊れた」「サービス残業が常態化している」など、買った商品、あるいは勤務先などにネガティブな印象を持っている人が、そのことを掲示板に書きこむ場合もあります。この場合、投稿する側は、「実際に被害を被っているんだ」「不愉快な思いをしたんだ」という正義感、あるいは私憤に基づいて書きこむ場合もあるでしょう。ネガティブな事実を口コミとしてみんなに知らせることで、購入検討中の人や転職活動中の人に対して、「この製品は注意したほうがいいよ」「このお店は当たり外れあるよ」「この会社は裏はブラックだよ」といった注意喚起をしたいという使命感に燃える人もいるでしょう。

私としては、これらが「事実」で、なおかつ「公益性」があれば、問題ないと思います。ただ、現実はそう甘くはありません。投稿内容があくまで「事実」であるのはもちろんのこと、場合によっては「事実であることの証明」や「公益性があることの証明」が求められます。それができないと、いくら「俺の言ってることは事実だ!」と周りにアピールしても、真実だと認めてもらえない場合がありますし、最悪の場合、投稿した相手の企業や商店、あるいはメーカーなどから「事実無根だ」「損害賠償をせよ」などと裁判を起こされる場合もあります。

言い換えれば、これまで「私はこう思った」という体験や感想に基づく「ナマの体験情報」として重宝されてきた口コミ情報が、今後はこれまで以上に、事実の提示が可能か否かという、十分な証拠に基づく投稿であることが求められるようになるのは確実でしょう。もちろん、口コミとは実際の体験に基づく真実の内容が投稿されるべきなのは、これは何も今に始まったことではありません。ただ、口コミ投稿には「創作」が少なからず存在します。これは口コミと名のつくものには、ありとあらゆるジャンルに蔓延しているものです。クラウドソーシングサイトで堂々と口コミの大量生産が募集され、当該サービスの実際のユーザーでなくても、ネットで調べてそれらしくレビューを仕立てても構わないというレギュレーションの募集も時折見かけることがあります。

 

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口コミ情報の取捨選択と訴訟リスクを考えたサポートも必要

口コミ投稿は、あくまで自己責任の範疇でおこなわれるべきものですし、口コミ投稿サイトにも必ずそのような規定が明示されています。一方で、前述したように、事実に基づくネガティブな情報を投稿した結果として、訴えられることも有り得るわけです。「訴えられてはたまらん」と恐れるあまり、広く一般に周知したほうがいいような有益な情報が表沙汰にならないことは、いわゆるブラック企業の体質を改めさせられず、被害拡大あるいは新たな被害者を生み出す恐れもあります。単なる誹謗中傷レベルの投稿から本当に有益な情報まで玉石混淆の口コミサイトから、いかにして情報を取捨選択・フィルタリングし、有益な情報のみをピックアップしていくかのか。これは本当に難しいことだと思いますが、絶対に克服すべき課題だと思います。恐らく今後は、こういったフィルタリングにAI(人工知能)がどんどん活用されていくのだろうとは思います。

そして、ネガティブ情報であっても公益性に鑑みて有益と判断できるようなものは、今後も積極的に投稿してもらうような仕掛けなり、万が一の訴訟リスクを考えたサポート体制なりも必要でしょう。

そういった取り組みがなされず、口コミサイト投稿者の自己責任論ばかりが台頭するとどうなるでしょうか。「とても良い」「良い」の評価ばかりが投稿され、「悪い」「非常に悪い」という評価が消え失せるという事態になりかねません。それはそれで大変不気味な事態ですし、消費者利益や求職者利益を損ねるものだと思います。もっと言えば、ネガティブな情報が真実である場合にも、それが事なかれ的な考えによって「不都合な真実」として蓋をされ、その有益な情報が表に出ない、あるいは真実から離れた評価が「創作」されてしまうのではないかと危惧します。

程度の差こそあれ、事実と主観の垣根が曖昧で、しかも「本当のこと」を書いたら訴えられる場合もある口コミ投稿。転職サイトにせよ商品比較サイトにせよ、口コミを取り扱うサイトは、投稿者の口コミを集客手段あるいはインターネット広告収入を得るための重要コンテンツと位置づけてビジネスに活用しているわけです。あくまで一般論として極論を申し上げますと、口コミを集めるだけ集めておいて、「投稿する人も閲覧する人も、全て自己責任でお願いね。私たちは場を提供しているだけですからノータッチです」という責任回避的な姿勢は通用しないと思います。口コミが持つ影響力の大きさは侮れませんし、扱い方によっては毒にも薬にもなります。今回の判決を機に、口コミ投稿の在り方や意義という原点に立ち返った論議、あるいは自問自答が必要な気がします。

 

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